魚の棚広報誌 うおんたな11号 

海から食卓へ、おいしい魚が届くまで

明石の魚はおいしい。そのおいしい魚はいったいどんな風にして私たちの食卓にやってきたのか、漁ってどんな風に行われているのか、見てみた~い!ということで、今回は漁師さんの協力のもと漁船に乗り込み、普段見ることのできない漁業の現場を、取材させていただきました!

取材協力
●「戎嘉(えびすか)」戎本裕明さん <底引き網漁>
●「中和(なかかず)」中谷正男さん <一本釣り漁>
●「かね福」井上夫妻 <底引き網漁の港での作業>
●明石浦漁業協同組合

漁に同行させてもらったのは明石浦漁協の漁師である戎本さん(底引き網)、中谷さんの船(一本釣り)。2人とも9~5月の間は海苔の養殖を行い、6~8月の3ヶ月間のみそれぞれの漁を行っています。その漁の腕は仲間の間でも定評があり、また手作りのおにぎり販売やレストラン運営を行う若手漁師グループ「AFAR(アファー)」でもリーダーとして活躍中です。

底引き網漁

午後2時出航
 戎本さんが行っているのは小型底引き網の中でも「チンこぎ」と呼ばれる漁。網に付いているチェーンのことを明石・淡路の漁師言葉で「チン」といい、それを引いて船を漕ぐので「チンこぎ」と呼ぶ。機械化や道具の改良が進み、明石浦では底引き網は1人で行う船が多い。

漁師「「ずっと轟音の中で仕事をしてるから漁師は声が大きいし、耳が悪い人も多いねん」
リポーター「すごいエンジン音!何しゃべってるのか聞こえない~」

午後2時半
漁場に到着・網を下ろす

 漁場は明石と淡路の間の海域に行くことが多い。まず探知機で海底の様子を調べ、勘を頼りに、船体後ろにある網を下ろしていく。網についたチェーンがカランカラン…と音をたてて海中へと沈む。

リポーター「一歩間違えば網とともに海へ落ちてしまいそうで、見てるだけでもヒヤヒヤ。漁師さんの仕事はやっぱり命懸け! 」

30~60分間船で網を引く
 海底まで網を下ろしたら、船をゆっくりと走らせる。水深は浅くて5メートル、深いと130メートルに及ぶという。海底の状態に合わせて速度を調整しながら、1回1~3キロメートルほど網を引き、30分~60分で網を上げる。網を上げてはまた下ろして引くという作業を10~15回繰り返す。

どんな魚が獲れるかワクワク~

網を下ろす上げる作業を黙々と続け、水揚げ量を増やしていく。

網を引き上げる
ひと網でイカが数杯、手の平大のカレイが3尾、タコが4~5杯、カサゴが2~3尾、アナゴが少し…という具合。せり網を上げるたびに、獲れた魚を選別し、商品価値のないものは海に返す。潮が悪く、これは少ない方。気がつけば辺りは真っ暗、他の漁船の明かりと、明石・淡路の町明かりが遠くに灯る中、漁師さんはひとり黙々と作業を続ける。

漁師「たとえばカレイが50枚入っていることもあれば、 まるで収穫なしということもある。
バクチみたいなもんやで! 」

午後3時帰港
帰港は日が変わった午前3時

1人操業の制限時間である13時間以内で引き上げ、港へ帰る。獲った魚はプール(活けす)に入れ、昼のせりに備える。

底引き網で獲れる魚種…
目板ガレイ、ヒラメ、ガシラ(アカメバル)、タコ、アナゴ、シタビラメ、マコガレイ、アブラメ(アイナメ)、ベラ、イカ、エビ、オコゼ。

狙う魚によって違う漁場・仕掛け…
狙う魚種によって魚のいる場所が違う。海底の状態や潮の流れで狙う魚のいる場所を読み、その魚種に合わせた仕掛けや網を使う。

明石浦の特権はお殿様の権力の名残?!
 明石浦漁協の地先(じさき・漁業権)は、明石川から朝霧にかけて。これは比較的狭いほうで、代わりに他の漁協の地先でも漁ができるように協定を結んでいる。明石浦は「新浜」の別名にも象徴されるように、江戸時代に城下町に新しく造られた港。当時のお殿様の権力で他の漁場にも入れるように取り決めがされ、今もその名残としてそのような協定があるそうだ。

1本釣り漁

午後2~4時出航
 1本釣り漁の出航は午前2~4時が基本。「今日は○○を釣る」と狙いを定めて、それに応じた仕掛けをいくつか用意して出航する。”まどろ“(=日暮れ)、”あさげ“(=夜明け)と呼ばれる、魚がえさを食べる時間帯にしか釣れないため、夜明けが勝負時だ。アジ、サバ、ツバスのように昼間活動する習性の魚を狙う場合は昼から夜にかけて漁を行う場合もある。

「まさに自然と向き合う仕事だね~」
「魚が活動する時間帯の2時間ほどが勝負!」

漁場はすぐそば 漁場に到着
 魚のいる場所に船が流れて行くように操りながら、生きたえびを潮の流れを読みながら投入し、7本の針がついた約25メートルの糸を手でたぐって釣り上げる。5~20分ごとに糸を引き上げ、繰り返す。2回目で30センチほどのスズキが釣れた!が、その後は当たりがないので漁場を移動する。その日の様子を見ながら場所を変えてみたり仕掛けを変えてみたりして、魚を獲っていくそうだ。

場所と仕掛けを変えながら何度もチャレンジ
船と海に浮いたウキの間の糸にぶら下がった数本の針に、餌のえびを付ける。潮の流れを利用して目的のポイントに仕掛けを流して行く。繰り返しこの作業を行い、ここでも30センチほどのスズキを2尾釣り上げた。また場所を変えて、疑似餌を使った「かけ流し」の漁法で好調に3尾釣り上げるが、その後はピタリと止まってしまった。1本釣りは底引き網漁よりもさらに博打性が強い。場所、潮の流れ、時間帯、さらに満月か新月かといった自然条件に大きく左右される。経験と勘、運も味方にして初めて結果が出る難しい仕事だ。

同じ魚種ばっかり獲れ過ぎたら値が下がる。
だから日によっていろんな魚を狙うんや。

値段が安いと消費者として
はうれしいけど、漁師さんも大変なんやね。

午前11時帰港
 昼市に間に合うように港に帰ってくる。釣った魚種に応じて、プール(活けす)で活かしておく場合もあるし、氷締め・鍵締め・エラ締めにしてせりにかける場合もある。

1本釣りで獲れる魚種…
ツバス、スズキ、ヒラアジ、マルアジ、タチウオ、サワラなど。

せりまでもうひと仕事、ここからは妻の出番。

 まだ薄暗い午前3時、船が港に着いてもまだまだ仕事は続く。船が着く時間に合わせて港で待ちかねているのは漁師の妻だ。今では携帯電話が普及し、到着時間を知らせられるようになったが、以前は前もって約束した時間まで港で待っていなくてはならず、大変だったそうだ。
 魚を水揚げした後、港での作業は妻の仕事(夫は次の漁に備えて家に帰り、睡眠をとる)。船上で種類別に分類された魚を、さらに大きさで選り分けてカゴに入れていく。そのカゴを明石浦漁港に設置してある水槽に沈め、せりの時間まで活かしておく。水槽に入ってていねいに魚を選り分けていく作業は大変な仕事だが、せりで少しでも良い値で売るためには欠かせない。このようにして、漁師の仕事は夫婦(または一家の男女)の共同作業によって成り立っている。命懸けで船を出す夫、そしてそれを支える妻、それぞれの苦労があるのだ。

午前11時半
明石浦漁協のせりがスタート!

 せりは午前11時半にスタート。プール(活けす)から揚げたばかりの魚が、せり台の上を滑るように通り過ぎていきます。階段状になった大きな台に何十人もの買い付け人が立ち、状態をひと目で判断しながら、せり人が声で発する符丁(独自の値段表現)に応じて、手の合図で値段を交渉したり、意思表示を行っています。隣には売買後の魚を留め置く水槽があり、興奮状態の魚を鎮め、未消化物を吐き出させて味をよくする「活け越し」という工夫も場合によって行われています。※明石浦漁協は関係者以外立ち入り禁止です。

次から次へとハイスピードで売買される様子は、迫力満点!

正午過ぎ
せり落とされた魚が、魚の棚商店街に跳ねる!

 漁協のせり場でも、魚が入ったトロ箱を持って超特急で走ってゆく魚屋さんの姿は迫力いっぱい!「少しでも新鮮なうちにお客さんに届けよう」という気迫に満ちている。買い付けられた魚はそのまま活けす付きのトラックで運ばれるか、鮮度をより長く保つために
”神経抜き“という処置をしたり適切に締めたりした後、運ばれる。
 明石浦漁協から魚の棚商店街までは車ならすぐの距離。だから正午過ぎには鮮魚店の店頭で昼網の魚が並ぶ。逃げ出すたこや跳ねる魚、魚の棚ならではの風景は、いち早く消費者に届けられる明石独自の仕組みがあるからこそなのだ。

午後6時
そして家庭の食卓へ…

 豊かな明石海峡に育まれた海の幸は、こんな風にして皆さんの家庭の食卓に並びます。漁師さんの苦労を知るとともに、命をいただくことへの感謝も忘れずに!
 それぞれの旬を逃さず、ありがとうの気持ちでおいしく味わいましょう。

漁は命がけ!明石海峡はキケンな“特定水域”
 明石海峡は好漁場であると同時に、本船(タンカーやフェリー)の航路でもある。そのため昔から衝突事故があり、海底には過去に沈んだ船も多いため、さらに危険な海域として”特定水域“に指定されている。1人で漁を出していると、真っ暗な中で作業に夢中になってしまう。ふと顔を上げると目の前に大きな船が近づいていた、ということも何度もあるそう。漁師の仕事は常に危険と隣り合わせだ。

知って欲しい、漁師の思い
 今年は8月に全国の漁協で一斉休漁が行われたが、これには漁師さんの「苦しさを理解してほしい」という思いが込められていた。高いガソリン代を使って沖へ出ても、自然相手の漁は博打のようなもので、時には赤字ということも。「明石では昨年の海苔養殖の重油流出被害に原油高が重なった。今年も不漁が続けば廃業しかない」との声もある。それでも日本一の明石の魚を次の世代にも提供し続けるため、漁師さんたちは今日も立ち向かう。
 そんな状況のなか、世の中で産地偽装問題が増えているのはとても残念なこと。「命がけで獲ってくる魚、明石ブランドは正しく表示してほしい!」。

前号のアンケートから たくさんのお葉書ありがとうございました

 前号は3月、いかなご大特集。特に一面のいかなご漁やくぎ煮普及の歴史についての記事が印象的だったという声が多かったですね。
● 文の内容も迫力があり、漁の大変さが短い言葉ですがよくわかりました。総毛さんの迫力あるドアップの写真が目から離れません。
● くぎ煮のルーツ歴史が大変興味を引きました。特に“浜のお母さんの記憶”地域に根ざした話で実感させられます。
●これをコピーしていかなごを送るところへ同封しようと思い、嬉しく拝見。貴重な新聞です。
いかなご関連の商品取扱い店を一覧にした「いかなごMAP保存版」は役立ちましたか?
●地図付きでとってもわかりやすく重宝でした。本当に保存しておきます!
イラスト入りいかなごレシピ」大好評でした!
● 浜のお母さん直伝の炊き方でくぎ煮を炊いたら、今までで一番きれいに炊け、色もツヤがあり良かったです。
●母にまかせっきりでしたが、これを参考に挑戦してみようかと思います。
前号ではNEW OPENのお店をたくさん紹介しました。皆さんもう行きましたか?
● 知らない間に新しいお店がたくさんできていてビックリ!
●今までは近寄りがたい気がしていましたが、新聞を見せてもらってだんだん親しみがわいてきました。
その他、今回は魚の棚商店街への貴重なご意見、ご提案をお寄せいただきました。ありがとうございました。
●このような情報紙で、うおんたなはガンバっているなと思う、わかりやすくてとても良いです。次回から各店の内容をもっと掲載してほしい。
● “うおんたな”で魚料理に目覚めた1人です。いつも調理法を載せてもらえて重宝しています。ところで、魚の棚を歩いていて、お買い得な魚を見つけますが、どう調理するのかわからない時があるのです。商店街でも希望者だけに旬の魚の調理法やレシピを書いた紙を配布してもらえないでしょうか?
● 七夕の飾り付け、年末の大漁旗が見事な飾り付けは商店街の発展ぶりが伺えるだけでなく、季節感も与えて良いことです。魚の駅を使って桃の節句、端午の節句、明石の市花・菊の頃には菊をメインにした飾り付けができたらと思います。
● 魚の棚を明石観光の目玉に!観光バスをよく見かけますが、もっと魚の棚に来てもらうためには周辺に大型バス駐車のための大きなバスプールが必要と思います。明石市が駅前の開発を考えているそうですが、魚の棚のためのバスのプールを造る運動をされては?